「言わはる」と「言いはる」—現代語でもちょっと気になる動詞の接続の話
藤野可織さんの『私は幽霊を見ない』という本を読んでいます。雑誌掲載の時に気になっていたのですが、最近文庫化されたというので買わない手はない!と思って購入しました。
で、そこにこんな一節が出てきます。(幽霊に首を絞められた云々の話をしているくだりです)
「えーと、上司さんは首を絞められたはったんですよね? ずいぶん余裕ですね」と私は先輩に言った。
『私は幽霊を見ない』角川文庫 p.81
「そうやなあ。下半身に重みを感じひんと思ったからこう頭を持ち上げて、足元の方を見たら、その女の子の脚はすーっとフェードアウトしてたんやでえって言ったはったけど、そういえば首絞められてたんはどうなったんやろなあ」先輩は半笑いで首を傾げた。
あれ、ここ、「言ってはる」じゃなくて「言ったはる」なんだな。まあそうか。藤野さんは京都の人だから、自分の知っている関西弁とちょっと違うのかもしれない…。
私は生粋の(?)関東人なので、よくある方言への憧れ的なものをもっています。それで、関西弁の「はる」もすごく好きなのですが、ある時ふと、「あれ、「◯◯って言いはる」は、「言いはる」と「言わはる」のどっちだっけな?」と電車のなかで思い至ったのでした。
どちらもあるということなのでしょうが、古典の指導をしているとこういうとき、「「はる」は未然形接続(言わはる)か連用形接続(言いはる)か」という気になり方になります。生徒に説明する時になにか使えないかな、と。
ネットで調べてみると、「言いはる」は大阪弁、「言わはる」は京都弁なのだそうです。(奈良や和歌山とかはどうなるんだろう?)
そうだとすると、教科書的に言い直せば、大阪は連用形接続、京都は未然形接続ということでよさそうです。
しかし、『古文を楽しく読むために』を読むと、接続形は未然や連用といった「接続形の名前」というより、「上にイ段の音がほしい」「ウ段の音がほしい」というように、「音」が本質的なのだということが納得されます。つまり、京都は「はる」の前にア段の音が来るのが主流で、だから「言わはる」「言ったはった」になるのでしょうね。
ちなみに、「はる」は「なはる」の省略形で、「なはる」は「なさる」の訛りだということです。「はる」は関西弁独自の助動詞的なものだと思っていたから、「なさる」と共通起源とわかると、なんか嬉しいなあ。
私は幽霊を見ない (角川文庫)
“幽霊とは、生きているときに上げられなかった声”だ。私たちは誰であれ今でも、上げられない声を抱えながら生きているから、こんなにも幽霊を追い求めるのだろう。著者の幽霊探しの旅は続く。文庫化にあたり、書下ろし収録。【解説】朝吹真理子
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