物理の定期テストはなぜこんなにも難しいのか

物理

先日ある高校生の物理の定期試験の平均点が10点だったと聞き驚いている坂本です。

高校の定期テストではしばしば、平均点がいわゆる赤点以下になることがあり、その科目は物理か数学であることが多いです。そこで今回は、なぜ物理の試験は難しいのか、平均点が赤点になってしまうのか考えてみることにしました。

書き始めると長くなってしまったので、先に要約しておきます。

  • 物理は勉強し始めは成果が出にくい
  • ある程度ひとつの単元を深く理解すれば簡単になりやすい
  • 学校の物理(特に物理基礎)は広く浅くすぎて各単元の深掘りがしにくい
  • よって物理は定期テストの平均点が低く、嫌いな人も多い

物理は難しいのか、簡単なのか

物理は高校科目の中では、数学ととも苦手/嫌いな科目にあげられることが多い科目です。

高校生の科目に対する意識調査を調べてみたところ、理科は嫌いな科目で数学・英語に次いで3位にランクインしています。(理科全体での調査。化学や生物を含むので参考程度に。)

考記事:【Vol.16】「高校生の好きな教科・嫌いな教科に関する調査」

Googleにおける検索結果は「物理 嫌い」で約1,000万件、「物理 苦手」でも約1,000万件となります。ちなみに「数学 嫌い」は900万件、「数学 苦手」は1,700万件。また「化学 嫌い」は700万件、「化学 苦手」は1,500万件です。

「物理 苦手」は数学や化学と比べてそこまで多くないけれども、「物理 嫌い」は多いことがわかります。(物理履修者や物理を一般入試で使う人は、数学や化学と比べて少ないにも関わらず。)

しっかり理解しないと公式を使いこなせない

物理の勉強のコツとしてよく言われるのが、「公式を覚えるだけじゃダメ、公式の意味をしっかり理解することが大事」だということです。

その通りだと思います。例えば等加速度運動の分野において、3つの公式の成り立ちを説明できない人は、高い確率で公式をごっちゃにしてしまったり、使う公式の選択を誤ります。

物理のはじめに学習する力学の中でも、加速度・相対速度・モーメント・摩擦・運動方程式あたりから、公式を覚えようとするだけでは解くのが難しくなってきます。

原理を理解し、図を書いてイメージを掴み、それから公式を活用することで解くことができるのです。

以上のように物理はちょっと勉強しても成果が出にくい科目です。勉強時間に対して比例的に得点が伸びるのではなく、ラーニングカーブがS字になるイメージです。

初めはたいへん、でも後は成果が出やすい

物理が苦手/嫌いだという人が多くいる一方で物理は簡単だという人も多くいます。

物理は覚えなくてはならないことが他教科に比べて圧倒的に少ないため、応用問題であっても基礎問題と同じことを積み重ねていけば解答することができるからです。

ラーニングカーブのある地点を超えると一気に理解が深まり、得点も伸びていきます。イノベーション理論でいうキャズムを超えるということと似ています。

物理のラーニングカーブ比較イメージ
物理のラーニングカーブ比較イメージ

物理の勉強をある程度した人の中には「物理は覚えることが少ないから楽だよ。受験科目にするんだったらおすすめ。」とアドバイスする人が結構いるのではないでしょうか。この人たちはキャズムを超えた(はじめの大変なゾーンを超え、わかるようになってくるゾーンまで学習した)人たちです。

ぼくも大学受験で物理を使いましたから、素朴に「物理は覚えること少ないし、得点しやすいし安定する。問題を解いたときにはなんともいえない爽快感もある。」と感じます。

このような表明は、生存者バイアスに陥っているということは百も承知ですが、せっかく物理を学んでいる人に、どうせやるならもっと物理を学ぶことを楽しんでもらいたいと日々思っているところです。

物理の定期試験の点数が低い理由

さて、記事のタイトルに戻りどうして物理の定期試験の点数が低くなるのかについてです。

生徒によく聞くのは「学校の先生が試験を難しくしすぎた。」というものです。もちろん、結果として平均点が10点になるようなテストは「試験問題が難しすぎた。」と言わざるを得ません。

しかし、問題用紙を見せてもらったときに「これは確かに難しすぎる。」と思うことはほとんどありません。個々の問題の難易度は決して高くないのです。

範囲が広い

一つひとつの問題は難しくない。でも試験全体としては難しいことが多い。その理由は一回の試験にでてくる単元が多すぎるということです。

一例としてある神奈川県のある高校の物理の一学期期末試験範囲の単元を以下に書きます。

  • 単振動
  • 惑星の運動
  • 万有引力
  • 気体分子の運動
  • 状態方程式算出
  • 熱力学第一法則
  • 熱機関と熱効率

これは約1ヶ月〜1ヶ月半で学習する内容です。もちろんこれらを理解するためには、既習単元である運動の法則・力の釣り合い・運動方程式などがわかっている必要があります。

これだけの単元について内容をそれぞれ深掘りするのは難しいです。学校の授業では授業時間の制約がありますし、自習で掘り下げていくのはチャレンジングなことだと思いますができるのは一握りの人だけでしょう。

そのため、これらの単元についての理解は浅いままになっていまい、大して難しくない基本問題を出題してもほとんどの人が得点できないということになります。得点できなければ生徒は物理を嫌いになります。

他方、学校の先生としては①平均点をある程度の水準にしなければならない、②一定の単元を進めなければならないという制約がありますのでできることが限られてきます。

そして、定期テストには基本公式に数字を当てはめるだけの問題を出す。そして生徒には「基本公式の問題だけを出すから暗記して。」と伝えることになります。(そう発言するかは別として。)

すると、物理の楽しさを味わえるところまで深掘りすることは一層難しくなります。そして生徒はますます物理を嫌いになります。だって公式だけ覚えたって役に立たないし、何よりつまらないですよね。

悪循環からどうやって抜け出すか

ではどうすればよいのでしょう。

まずは、狭い範囲で構わないから原理から理解するというマインドを持ちましょう。

受験で物理を使う人であればまずは力学を完璧に、そうでない人は今学んでいる範囲のうち習得したい一部分の内容を深掘りし論理的に説明できるようにします。

そのためには、いきなり学校で指定される問題集を解くのではなく解説系の参考書を一冊持つ、講義動画で学ぶ、学校の先生などに質問するなどして理解を深める機会をつくりましょう。もちろんそのあと問題を解き、自分の言葉で解説ができるまで反復練習しながら理解を深めることが重要です。友人と互いに解説し合うのも効果的だと思います。

そんなことしてたら試験範囲が終わらないのでは?

たしかにそうかもしれません。でももしあなたの物理の得点が赤点かそれに近い状態だったら、広く浅くより、狭く深くの方がむしろ高得点をとることができます。そして、そういう勉強はあなたの思考力を鍛え、後の人生の糧となってくれることでしょう。

私たちは、横浜にある小さな個別指導の学習塾です。

一般的な学習塾では、予め決まったカリキュラムに生徒を適応させることが重視されています。

私たちにとってもカリキュラムは大切なものですが、勉強を通じて生徒自身が「どう勉強したいか」考えて行動できるようになることが、勉強を楽しむことに繋がり、長期的な学力の向上に貢献すると考えています。

「勉強する力をつけたい」「どうせやるなら勉強を好きになってもらいたい」という方は是非ティーシャルをご検討ください。

この記事を書いた人

坂本 諒

ティーシャル代表。数学、物理、化学などを担当。

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